無重力と無重量

どうも、新スタッフの濱口です。

以前、
「猿やリンゴは落ちるけど、月は落ちない」というのは実は間違いです。
間違いですが・・・説明はまたの機会に。
と書きましたがネタがないので今がその「またの機会」になりました。

実は月は落ちてきています。少なくとも万有引力的には。
落ちてきているのに月が地球に激突しない理由は・・・。

ここでちょっと話は横道にそれます。
野球のマウンドからホームベースまでは18.44mです。
プロの選手のフォークボールは120km/h程度で0.8mほど落ちます。
なぜ直球(ストレート)ではなくフォークボールなのかというと、
直球はそのバックスピンにより浮き上がっているのです。その浮き上がりと
重力の影響が打ち消しあって「まっすぐ」進むのです。フォークボール
無回転なので浮き上がりがなく重力の影響のみを受けます。
だから重力の話をするならフォークボールが最適なのです。

地球上ではあと数mも進めばフォークボールは地面に落ちます。
ただ普通はその前にキャッチャーが捕球しますが。

地球上ではそうなりますが、ここで界王星ではどうなるか考えて見ます。
ある程度、年を重ねた人はわかると思いますが、
界王星とはドラゴンボールに出てくるキャラクター界王様が住んでいる、
地球の10倍の重力を持つ小さな星です。
いやドラゴンボールほど有名なら若い人も知っていますね。
何度もリメイクされてますし。

その界王星の直径は公式には設定されていないようですが、界王様の車の大きさと比較して
星の大きさを割り出した人がいます(http://tenkyo.net/kaiho/pdf/2010_09/2010-09-07.pdf)。
その結果は「半径18m」。

そこで同じようにボールを投げます。ただし重力は10倍ではなく地球と同じだとします。
するとやはり18.44m進んで0.8m落ちます。
これを図にすると
20130716015112
となります。
0.8m落ちているのですが界王星表面からの距離はかえって遠くなっています。
実際には星の半径ほども動けば重力の方向が変わりますからこの図は正確ではありませんが
地面に落ちる前に、星の丸みを無視できないあたりまで動くことができれば
地面に落ちることなく星の丸みに沿って飛ぶことができます。
地球の場合は7.91km/sのフォークボールを投げるとぐるりと地球を1周して戻ってきます。
もちろん空気抵抗を含む障害物に当たらなければ、ですが。
この速度7.91km/sを第一宇宙速度といい、この速度で地表から打ち出すと人工衛星になります。

月は半径384,400kmのところを公転周期27日7時間43.1分つまり2,360,586秒で回っていますので
その速度は1.02km/sです。第一宇宙速度より遅いですが、第一宇宙速度は地表から打ち出すときに
必要な速度で、一度地表から離れてしまえば重力が小さくなりますので第一宇宙速度より遅くても大丈夫です。

つまり月が地球の周りを回っているということは地球の重力の影響を受けているということであり
地球に向かって落ちているということになります。
もっとも上記の説明の「落ちてきているが地球の丸みの影響で距離が縮まらない」ではそうですが、
「地球の引力と公転の遠心力が釣り合っていて落ちない」という考え方もあるので
「月は落ちていない」という人もいると思います。
これはある意味、宗教論争なのでここで打ち切りたいと思います。

ところで月に地球の重力が働いているのは間違いないのですがそれはどれくらいかというと
地表の重力の0.027%です。
無重力といっても問題ないでしょう。もっとも月自体の重力があるのでふわふわ浮くわけではありませんが。

ふわふわ浮く無重力といえば、宇宙ステーションからの中継でよく見ます。
「ああ、たしかに」と思ったあなた、それはかん違いです。
あれは「無重力」ではなく「無重量」です。

無重力」は文字通り重力が無い状態。「無重量」は重力はあるが、いろいろな力が重なり合い、
重力がないように見える状態です。
たとえば自由落下する物体は無重量です。スカイダイビングすると無重量になりますが、
落下速度が200km/hにもなり、大きな空気抵抗を受けるのでとても、ふわふわ浮いているとは感じません。
ですが飛行機ごと落下すればその内部は無重量を体感できます。そのため宇宙飛行士の訓練に使われます。

さて、宇宙ステーションが「無重力」か「無重量」かですが、
「重力が完全に0でないから無重力じゃない」という気はありません。ある程度より小さければ
それは0とみなせます。
ではその境界をどこに設定するかですが、よく使われるのは1%や5%以下だと0とみなす。
ノイズが多い場合だと10%以下をないものとすることもあります。
境界をしっかり決めておかないと「無重力」か「無重量」かは水掛け論になります。
が、ちょっと後回しにします。

次に肝心の重力の求め方ですが、
地球を細かい部分に分けてそれぞれの質量と距離を求め、それを地球全体で足し合わせる(積分する)
というのが正しいのですが計算が大変です。
こういうとき物理では「質点」という概念を用います。
実際の物体は大きさを持っていますが大きさが0の点だとしてその質量がすべて重心に集中しているものと
して扱います。これが「質点」です。
変形したり回転したりしなければ、多くの場合、質点として扱えばうまくいきます。
ただし、重力(引力)を扱う場合、条件があります。
物体が球殻でない場合、質点に質量を集中させると値が変わってしまいます。
球殻とは球の表面だと思えばほぼ合っています。
また半径r=Rの球はr=+ε(εは非常に小さな正の数)からr=Rまでの球殻の重ね合わせですから、
球も質点として扱えます。
そして地球はほぼ球体ですから質点として扱うことが可能です。

実験棟「きぼう」を含む国際宇宙ステーションISS)は、地上約400km上空にあります。
地球の半径は6,371kmなので、地球の質点から地表までは6,371km、国際宇宙ステーションまでは6,771kmです。
そして万有引力は距離の二乗に反比例しますから、
国際宇宙ステーションにおける重力は、地表の重力の
63712÷67712
になります。これを計算すると88.53%です。

さっき後回しにした、0とみなす境界を1%、5%、10%のどれにするかという問題は
まったく無意味でした。誰がどう考えたって、88.53%は0とはみなせません。

つまり国際宇宙ステーションは地球に引かれて自由落下していて無重量になってい中の宇宙飛行士が
ふわふわ浮いているのであって、決して無重力ではないということです。

今回は重力のお話でした。